ここでは統括会社を設立する場合に現物出資を用いたときの事例を2つほど挙げてみます。
(1) シンガポールに統括会社を設立し、タイとベトナムの海外子会社を現物出資したケース
日本に親会社があることを前提として考えます。まずこの場合、現物出資となるタイやベトナム子会社、そして現物出資を受け入れるシンガポール統括会社については特段の課税関係は生じません。但し、日本の親会社については、課税関係を考える必要があるでしょう。
(日本)
まずは日本で、現物出資の適格性を判定します。
(a) 適格現物出資の場合 課税は生じません。
(b) 非適格現物出資の場合 タイ及びベトナム子会社株式の譲渡損益に対して課税が生じます。
(タイ)
租税条約で譲渡益課税が排除されてはおりませんが、株式の移転先がシンガポール法人でタイ国外のため譲渡益課税はないものと考えられます。
(ベトナム)
租税条約で譲渡益課税は排除されてはおりませんが、そもそもベトナム国内法で譲渡益課税の対象となっておりますので、日本の親会社がベトナムで譲渡益課税されます。
上記の場合、外国税額控除の適用を検討することになりますが、適格現物出資であれば外国税額控除の限度額は発生いたしません。もう一つ、タイやベトナムの海外子会社がシンガポールが直接の親会社に変更になりますので、株主変更に伴う繰越欠損金や優遇税制への影響も考慮に入れなければなりません。
(2) 香港に統括会社を設立し、中国子会社を現物出資したケース
この場合、現物出資の対象となる中国子会社、現物出資を受け入れる香港の統括会社については法人税の課税関係は生じないと思われますが、日本の親会社では日本及び中国での課税を考える必要があります。
(日本)
まずは日本で、現物出資の適格性を判定します。
(a) 適格現物出資の場合 課税は生じません。
(b) 非適格現物出資の場合 中国子会社株式の譲渡損益に対して課税が生じます。
(中国)
日中租税条約で譲渡益課税は排除されておらず、中国国内で譲渡益課税の対象となるため、原則譲渡益課税されます。但し、「特別税務処理」を適用する場合には課税されません。合併のところで記載しましたが、ここで再掲します。
(a) 再編取引に合理的な事業目的があり、税負担の軽減等を主な目的としていないこと
(b) 再編後の連続する12か月間に再編資産に係る実質的な経営活動が変化しないこと
(c) 持分による支払額が支払総額の85%以上であること
(d) 再編後の連続する12か月間に、当初の主要な出資者が取得した持分を譲渡しないこと
なお、クロスボーダー取引となりますので、以下の要件も充足しなければなりません。
(e) 非居住企業(日本親会社)が100%支配する他の非居住企業に対して保有する居住企業(中国子会社)の持分を譲渡する。
(f) 持分譲渡で将来の源泉税負担が変化しない。
(g) 譲渡者である非居住企業が主管税務局に対して、保有する他の非居住企業の持ち分を3年以内に譲渡しないことを書面で承諾する。