インドネシアで現地法人が資金調達を行う場合は、次のようになります。
増資 | 現地借入 | 親子ローン(外貨融資) | |
資金の出し手 | 日本本社 地域統括会社 | 現地金融機関 | 日本本社 地域統括会社 国外金融機関 |
通貨 | ルピア | ルピア | ルピア・日本円・米ドル |
現地法人の金利負担 | なし | あり(高い) | あり |
為替リスク | なし | なし | あり(一部強制的にヘッジが必要) |
資金使途 | 規制なし | 規制なし | 規制なし |
現地に進出している日系企業は現地通貨(ルピア)または外貨(ドル、円)を民間地場銀行、国営商業銀行、外国銀行支店、外資系合弁銀行等から借り入れることができる。この点は比較的に自由なのですが、2014 年 10 月にインドネシアでは一般事業法人の外貨建対外債務規制が通達されており、一定基準に該当する場合はインドネシア中央銀行への報告と外貨建債務のヘッジ等を義務付けられることとなりました。
まず、海外からの借入で引き出される外貨は、インドネシア国内の外為銀行を通じて受領しなければならず、引き出しの翌月10日までに中央銀行に報告しなければなりません。また、海外借入れの引き出し報告は、外貨出し入れ(LLD)活動報告について定める中央銀行規定に基づき、海外借入れ引き出し実績報告を使用して行い、その際、引き出し証明の添付が必要で、これらは宅配や郵便、ファックス、メールなどで、翌月15日までに中央銀行に提出することになります。海外借入れ外貨の引出額の合計が、約定額よりも5,000万ルピアを超えて少ない場合は、借入期限が終了する前に、中央銀行に書面で説明する必要があり、報告義務を果たさない者には、罰則が適用されます。
インドネシアの外貨規制で厄介なのは、外貨建て海外借入れのヘッジ・流動性管理・格付け義務が課されていることです。
(1) 外貨建て海外借入のヘッジ規制
外貨建てで海外から借入れをした企業(金融機関を除く)に、最低ヘッジ比率の遵守が義務付けられました。①3 ヵ月以内、②3 ヵ月超6 ヵ月以内に期日の到来する外貨建債務が外貨建債権を 10 万米ドル以上超過する場合、この超過部分の少なくとも 25%をヘッジすることを義務付けられました。なお、ヘッジ比率規制では、ヘッジはインドネシア国内の銀行(邦銀の在インドネシア支店を含む)と行うこととされています。インドネシア国外の銀行とヘッジ取引を行った場合は外貨建資産と認識せず、ヘッジ比率や流動性比率の計算にも含めません。
(2) 流動性比率規制
四半期末時点で 3 ヵ月以内に期日が到来する外貨建債務残高に対し、その残高の 70%にあたる外貨建債権残高保有が義務付けられました。
(3) 外部格付取得義務
2016年1月1日から、権限を有する当局によって認められた格付け機関から、会社の財務状況や会社が期限内に債務を履行する能力について、少なくともBBマイナス相当の信用格付けを取得していることが義務付けられています。但し、次の借入れは対象外になっています。
(a) トレードクレジット
(b) 借入額がほぼ変わらないリファイナンシングである外貨建て海外借入れ
(c) インフラ事業の支援に関わる国際機関(二国間/多国間)が過半数以上の債権者である外貨建て海外借入れ
(d) 政府のインフラ事業支援のための外貨建て海外借入れ
(e) 国際機関(二国間/多国間)が保証する外貨建て海外借入れ
(f) その他の外貨建て海外借入れ
なお、信用格付け義務は、融資契約書に署名した時には必要で、格付けの決定・発行から2年間有効です。なお、親子ローン等の外貨建て海外借入れの場合は、親会社の信用格付けを利用できます。
上記の外貨建債務とは、基準となる四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に決済期日の到来する外貨建債務で、外貨建調達の元利金、外貨建買掛金、外貨売ルピア買為替予約、スワップ、オプション取引などが含まれます。
一方、外貨建債権とは、現金、当座預金、普通預金、定期預金、市場売買可能な証券、基準となる四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に決済期日の到来する外貨建債権、基準となる四半期より前に約定され、四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に決済期日の到来する外貨買ルピア売為替予約、スワップ、オプション取引などが該当する。更に、過去 1 暦年における輸出比率が売上高の 50%を超える輸出企業については、在庫も参入が可能となります。その場合、参入可能となるのは完成品では 100%、仕掛品では 50%、原材料では 25%となり、治具や付属品は計算に含まれません。
また、報告の手続きは次の2つが必要になります。
(1) 金融機関とノンバンク会社の外貨出し入れ(LLD)活動報告
(a) 居住者と非居住者との間の物品・サービス取引とその他の取引
(b) 海外金融資産(AFLN)および/あるいは海外金融債務(KFLN)のポジションと変更
(c) 海外借入れ(ULN)の計画および/実行
※毎月、翌月15日までに、オンラインで中央銀行へ報告。海外借入れ計画の報告のみ毎年3月15日までに、海外借入れ計画の変更報告は毎年7月1日までに提出。
(2) ノンバンク会社の海外借入れ運用における慎重の原則適用活動(KPPK)報告
(a) KPPK報告:3カ月後あるいは6カ月後に償還期限を迎える外貨建て資産と外貨建て債務
(b) 監査証明(attestation)手順を通じたKPPK報告(独立公認会計士による評価)
(c) 債務格付け遵守についての情報:債務格付け、格付け時期、格付け機関の名称
(d) 財務報告:未監査の四半期報告と監査済み年次報告
※オンラインで中央銀行へ。「KPPK報告」は四半期ごと、未監査の四半期財務報告とともに、該当四半期の翌月末までに。「債務格付け遵守の情報」は、海外借入れの署名あるいは発行した月の翌月末までに。「KPPK報告」は、独立した公認会計士の監査済み年次財務報告とともに、該当年の翌年6月中に報告することになります。
また、外部格付取得義務では、格付有効期限は取得日から 2 年間とされている。格付会社はインドネシア国内の格付機関(PEFINDO、ICRA など)も国外の格付機関(JCR、R&I、Moody’s、S&P、Fitch など)も同等に扱われる。ちなみに新規格付取得には1件あたり百万円以上の費用が必要とされ、格付維持にも費用がかかるだけでなく、BB-以上の格付取得は多くの中堅・中小企業にとって困難でもある。このように外部格付取得義務は、本邦中堅・中小企業のインドネシア子会社のオフショアローンの調達に大きな制約となることから、国際協力銀行では、国際機関等の保証が付与された債務の借入は外部格付取得義務の例外とされる条項を利用して、中堅・中小企業向けに、外貨建てオフショアローンによる長期資金調達を可能とする保証付借入スキームを2017 年 3 月から実施している(貸付実績あり)。
この他、「同一グループ向けの貸出は資本金の 25%以内、同一企業向けでは同 20%以内」とする銀行の 1 企業グループあたりの大口融資規制(Legal Lending Limit:LLL)も導入されています。
日系企業の場合、材料の調達や設備投資をドルで行う企業を中心に、ドル建ての借入が多いようです。一方、ルピア建ての借入は、運転資金やバイクの販売金融会社等でニーズが高くなっています。ルピア建てであっても設備投資向けに最長 7 年の借入が可能ですが、多くの場合 3~5 年となっております。
近年、実態の貸出金利を商業銀行間で比較すると、ドル、ルピアともに邦銀と地場銀行との差が縮小してきたとの声があります。従来は邦銀の信用力がインドネシア地場銀行に対して相対的に高く、特にドル調達コストに優位性がありましたが、地場銀行も国際調達力を強め差が小さくなったものと思われます。また、ルピアの調達コストについては、地場銀行は巨額の預金を背景に安く長期の調達が可能となっており、邦銀が外貨を元手にスワップを掛けても対抗が難しくなりつつあるとの声もあります。
インドネシアの借入期間は総じて短く、売掛金も買掛金もサイトが 1 ヵ月程度であるため、借入期間も 7 日から 1 ヵ月の運転資金のニーズが多く、6 ヵ月を超える資金ニーズはあまり多くありません。また、設備導入に伴う長期借入に関しても、5 年以下が殆どのようです。
(参考)基礎的経済指標
2015年 | 2016年 | 2017年 | |
実質GDP成長率 | 4.9% | 5.0% | 5.1% |
名目GDP総額 | 861(10億ドル) | 932(10億ドル) | 1,015(10億ドル) |
一人当たり名目GDP | 3,371USD | 3,604USD | 3,876USD |
政策金利 | 7.5% | 4.8% | 4.3% |
米ドル為替レート (期中平均) | 13,392ルピア | 13,307ルピア | 13,398ルピア |
為替相場管理 | 変動相場制 |
出所:JETRO
なお、日本政策金融公庫はインドネシア国営銀行の「バンク・ネガラ・インドネシア」と「スタンドバイ・クレジット制度」にかかる業務提携契約を締結しております。