インドの外貨規制と現地法人のファイナンス

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インドで現地法人が資金調達を行う場合は、次のようになります。

  増資 現地借入 親子ローン(外貨融資)
資金の出し手 日本本社 地域統括会社 現地金融機関 日本本社 地域統括会社 国外金融機関
通貨 インド・ルピー インド・ルピー インド・ルピー、日本円、米ドル
現地法人の金利負担 なし あり(高い) あり
為替リスク なし なし あり(ヘッジ可)
資金使途 規制なし 規制なし 設備資金(限定的に運転資金)

既存株主による増資はインドの現地法人で最も多く利用される資金調達手段であり、定款に定められた授権資本金額以内であれば、取締役会決議(場合によっては株主決議も必要)で新株発行が可能となります。但し、インド中央銀行に事後報告は必要になります。また増資を行う場合、増資金を入金するための別段預金口座の作成が必要になるケースがあります。

インド国内における資金借入は、インド・ルピー建てのみ可能であり、外貨建ては、輸出入決済関連を除き、原則許容されておりません。インド・ルピー建ての国内借入は、期間・資金使途等に規制がないため、資金ニーズに合わせて調達が可能です。短期の運転資金借入としては、

・Working Capital Demand Loan (WCDL):収支ズレを支える運転資金

・Short Term Loan (STL):納税資金や賞与資金等スポットの資金需要

の 2 種類があり、資金目的に応じて、現地日系企業も多く利用しています。

インド・ルピー借入による高い金利負担を避けるために、インド国外で金利の低い外貨(日本円やアメリカドル等)を調達し、インド国内へ送金、投資資金等に充当することが認められていますが、インド国外資金調達に際しては、様々な制限が課されており、インド中央銀行が定めるECB規制を遵守しなければなりません。

次にECB規制についてみていきましょう。ECB規制 (External Commercial Borrowing:対外商業借入) とは、インド中央銀行(RBI: Reserve Bank of India)が管轄する外国為替規制の1つであり、インド内国企業が国外資金調達を行う際に、遵守しなければならない規制です。なお、手続き面から、以下の 2 通りに分類されます。

(a) Approval Route(承認ルート): 事前の中銀申請・承認取得が必要。

(b) Automatic Route(自動認可ルート): 事前中銀申請は不要、但しローン番号取得のための中銀宛て事前手続が必要になります。

一般的に、「承認ルート」は、中銀内で個別審査を経るためスケジュールの見通しが立ちにくく、また不承認となる可能性もあるため、通常は「自動認可ルート」の枠組みで利用します。ここでは、「自動認可ルート」の規制内容について、以下概要を紹介しましょう。

項目 内容 注意点
通貨 外貨(JPY/USD他) インド・ルピー  
貸し手 インド国外の銀行/親会社 親会社は25%以上の直接出資が必要。間接出資会社あるいはグループ会社でも可。
上限コスト 6か月物LIBOR ・3~5年 +350bp ・5年超  +500bp 変動金利及び固定金利
期間 平均借入期間 USD20万以下 3年以上 USD20万超   5年以上 運転資金は据え置き7年以上。
資金使途 設備資金・インフラ資金  
貸出上限 1会計年度につき 一般・インフラ事業:750百万USD サービス:200百万USD  
負債資本比率 投下資本:外貨融資=1:4 現地金融機関からは制約なし。

表記載の通り、インド国外からの資金調達については様々な制限が課されており、特に資金使途については、原則として、設備投資・インフラ開発資金のみで、運転資金での利用は限定的な扱いとされています。但し、運転資金のECBについて、以下のように条件緩和がされています。

  • 貸出企業は直接25%以上出資している親会社
  • 業種は製造業・インフラ・ホテル・病院・ソフトウェアに限定
  • 返済は最低7年間据え置き
  • さらに期限前返済は不可(自分の子会社なのに!)

なお、ECB を利用する最大のメリットは、インド・ルピー国内借入に比べて金利負担が小さいということですが、実際利用する場合に以下のような注意点があります。

  • 中銀手続き・報告:自動認可ルートでは、中銀宛事前申請・承認取得は不要ですが、ローン番号(LRN: Loan Registration Number)の事前取得が必要で、この手続きに通常2週間程度を要します。(これに加えローン契約書締結、インド・日本間の関係書類やりとり等から、ECB 準備期間として 1~2 ヶ月は見込んでおいた方が無難です)。また、ECB 実行後も、返済・残高に係る中銀宛て月次報告書提出が必要となります。
  • 貸出代わり金の扱い: ECB 調達した外貨資金については、輸入設備などの対外外貨決済に充当される部分のみ、外貨のまま保有することが許容されます。国内ルピー支払いに充当される部分については、実行後直ぐにインドへ送金し、国内ルピー口座へ入金しなければなりません。
  • 為替変動リスク: ECB は長期外貨借入なので為替変動リスクが発生します。ルピー安になるほど返済時に為替差損を被ることになります。膨大な経常赤字を背景として、インド・ルピーは長期的に見てもルピー安になりやすい通貨と見られているため、為替変動リスクには十分な注意を払う必要です。リスクヘッジ手段としては、通貨スワップを組むことが可能ですが、全額ヘッジすると、インドルピーベース出来上がりコストは上昇することとなります。それでも、インド国内ルピー長期借入よりは、2%~3%借入コストが低くなることが多いです。

以上、インドの現地法人の資金調達においては、設備投資は国外からのローンで賄い、運転資金は現地金融機関からの借入で賄うか、もしくはある程度出資金の中でカバーするようになると思われます。

(参考)基礎的経済指標

  2015年 2016年 2017年
実質GDP成長率 8.0% 7.1% 6.7%
名目GDP総額 113,810(10億ルピー) 121,898(10億ルピー) 130,108(10億ルピー)
一人当たり名目GDP 1,639USD 1,749USD 1,983USD
政策金利 6.75% 6.25% 6.00%
米ドル為替レート (期中平均) 65.42ルピー 67.03ルピー 64.46ルピー
為替相場管理 変動相場制(ただし極端に不安定な変動局面には、インド準備銀行が介入。)

出所:JETRO

なお、日本政策金融公庫は2016年11月11日にインド大手商業銀行の「インドステイト銀行」と「スタンドバイ・クレジット制度」にかかる業務提携契約を締結しております。

金融機関名 インドステイト銀行(State Bank of India)
資本金 77億インド・ルピー(13億円)
貸付残高 14兆6,370億インド・ルピー(24兆8,829億円)
総資産 22兆5,906億インド・ルピー(38兆4,040億円)

※1インド・ルピー=1.70円(2016年3月末時点)

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