株式買収ではなく、資産買収を行う場合の最大の論点は「のれん」償却が認められるかどうかです。償却が認められれば節税効果があります。
のれんの償却が認められない国:中国、香港、インド、マレーシア、フィリピン、シンガポール
のれんの償却が認められる国 :インドネシア、韓国、台湾、タイ、ベトナム
当然のことながら、買収対象会社の事業を引き継ぐ新設会社において、将来的に多額の課税所得が認められることが前提となります。のれんの節税効果は、将来の利益見込みに左右される要素が強いのです。
のれんの償却が認められない国では、税務メリットを享受する方法がないのでしょうか。結局のところ、のれん償却が認められない場合、事業譲渡時の購入対価の配分で、買収会社側は償却可能な無形資産(特許権及び商標権等)に可能な限り購入原価を配分していくことになるでしょう。
資産買収の場合、繰越欠損金を買主が用いることはできません。しかしながら、株主買収の場合は買収対象会社の株主に譲渡益課税が行われるのに対し、資産買収の場合は買収対象会社において譲渡益が発生し、買収対象会社に繰越欠損金があれば、その範囲内では課税されないため、回収対象会社の株主への残余分配財産が増え、売り主側のメリットになります。これが資産買収の際の価格に良い影響を与えます。
資産買収の場合、優遇税制はそのまま引き継げませんが、事業の受け皿となる新設会社において、再度申請しなおすという手続きを踏むことになるでしょう。
資産買収に当たっては、付加価値税(Value Added Tax)や不動産取得税などの間接税が発生する場合があります。ここでいう付加価値税は日本でいうところの消費税に該当しますが、諸外国の還付は日本ほど容易ではないことに注意が必要です。インドネシアでは還付請求の際に税務調査が入り、全額還付されるとは限りませんし、還付がタイムリーに行われない可能性もあります。
譲渡資産に不動産が含まれる場合には、不動産取得税がかかります。例えばインドネシアでは、土地建物取得税と言いまして、新設子会社が資産買収で土地や建物を取得する際は、実際の取得価額か、税務当局が定める課税評価額のいずれか高い方を5%として税金が課されます。
資産買収が株式買収と比較して有利になる場合は、次の通りです。
(1) 税務上「のれん」の償却が認められている
(2) 買収対象会社が繰越欠損金を有していない(あるいは少額)
(3) 事業譲渡時の間接税がタイムリーに還付される等スムーズ
(4) 租税債務や税務リスクの切り離しが不透明な場合